たらればだけど
金曜日、兄からLINEがきた。
「今日、検査したら悪くなってた」と。
ワシが行った時、前日にドラッグストアに行ったなど話していて元気だった。
元気だったのは抗がん剤を中断して副作用が出てないからだった。
今年の初め「おそらくこの状態だと1〜2年」と主治医から説明され、兄なりに覚悟をしたようだった。
しかし、抗がん剤が思いのほか効いて、夏前に「癌が小さくなっていると言われた。先生はもしかしたら、最悪夏を乗り切れないかもしれない言う思いもあったらしいんだよね」と嬉しそうなメールの内容が書かれていた。
カテーテルを外し、最初は排尿障害で苦労したり、副作用で1週間くらい辛い時期はあれど効果は出ていた。
「自宅での暮らしが長くできたらいいね」と返信した。
この抗がん剤は兄にはあったのだろう。
排尿障害もほとんど無くなり、ワシが送ったパッド類は通院など外出の時だけ使用するだけになった。
ところが主治医から別の抗がん剤を提案され、それを使ったところ思わぬ副作用が出た。
抗がん剤の効果が期待される患者と考えたのだろうか。
新しい抗がん剤は、今までの「癌を叩く」タイプに対し「癌に負けないようにする」タイプもので使用実績はまだ少ない薬。
患者は主治医を信頼するしかない。
もちろんインフォームドコンセントはしっかりやったろうし、兄も納得したはずだ。
副作用の出方も異なった。
目ヤニがすごい、皮膚が乾燥して粉がふく、倦怠感、微熱など、嘔気など。
主治医から内分泌内科の受診をするように言われ、結論として新しい抗がん剤はメリットよりデメリットが大きいため、8月いっぱい抗がん剤を中止して、今月から前の抗がん剤に戻す方向になった。
ワシが帰った翌日が通院で、事前検査で問題がなければ抗がん剤治療をする予定だった。
しかし、中断しているあいだに癌がまた大きくなってしまったことがわかった。
兄はショックで「今日はやめておく」と抗がん剤治療を断ってきたそうだ。
ワシが「前の抗がん剤でまた小さくなるんじゃないか?副作用のパターンもわかってるし、再開しなよ」と返信した。
わかってはいるみたいだけど、良い結果を出した分の反動が大きいみたいだった。
余命宣告はされているけど「まだいろいろやれる時間があるんだ」と前に進むのと、新しい抗がん剤のデメリットによって、治療期間をあけてしまった結果、癌が大きくなるとでは…
それに認知機能の低下の自覚もあるようだ。
車の運転に対して「まだ大丈夫」という。
事故を起こす高齢者はたいていそう言う。
しかし、兄は要支援1で介護タクシーの保険適用外。
幸い、病院もドラッグストアも近く交通量も少ない。
制動距離を長くとるという意識は持っている。
運転は月に2〜3回程度。
ケアマネは次に入院したタイミングで再認定との考えがあり、要介護がついた時点で車は手放すよう話すと思う。
ワシに免許をとりあげる権利はない。兄の尊厳に配慮して「あとお兄さんの生活環境で最低限の生前準備はしないとだよ。免許も含めてね。あといざとなった時に私はチャリンコ飛ばしてこれないからね。民生委員さんの協力も必要だから。癌患者が全て癌で亡くなるわけじゃないし、貰い事故だってコロナだってあるから」と話してきた。
車の車検は昨年通してるし、税金も払い、来年の春まで処分しなくて良いので、次に行く時まで、気持ちを立て直してもらいたい。
まだ気持ちの整理がつかないみたいだけど、また前の抗がん剤で治療してほしい。
魔法が使えるなら7月に戻したいよ。
たらればだけど。